ファフリザデ暗殺はアメリカ、イスラエルのいずれにも安全をもたらすまい

2020年12月1日
ウラジーミル・プラートフ
New Eastern Outlook

 11月27日、全てのイスラム教徒にとって聖なる日、金曜日、テヘラン郊外で行われた主導的イラン原子物理学者モフセン・ファフリザデの陰険な暗殺は、イラン国民のみならず、イスラエルやアメリカや世界中で強い反応を引きおこした。

 この科学者は、イラン核開発計画を代表し、イスラム共和国国防省の研究開発部門を指揮する偶像的人物だった。彼は弾道ミサイル開発でも積極的な役割を果たしていた。彼はイランの核(とミサイル)計画推進の先駆者で、彼の名が関係した最初のものは、1999年から、2003年、テヘランが開発中だったAMADと名付けられた軍による極秘核プロジェクトだ。2015年、イスラエルとペルシャ湾岸君主国家全てでの、イランのミサイル計画を巡るパニックのさなか、フォーリン・ポリシー誌は、世界で500人の最も影響力を持つ人々のリストに含まれる5人のイラン人の一人として、ファフリザデをあげていた。その分野で、彼らの軍事計画が純粋に防衛のためだというイランの宣言にもかかわらず、イランのミサイルは、イランの槍のある種の穂先とみなされた。サウジアラビアがテヘランに対して多くの挑発行為をした後、イランの実力は、既にサウジアラビア石油インフラ施設で実験済みだ。ファフリザデの発想の産物、四機の弾道ミサイルが、2020年7月29日「ある意味、完全に偽装された形で」地上から発射された記録をセパ・ニュースが公表した際、ペルシャ湾君主国家やイスラエルが抱く恐怖は深まった。その後、彼らは、アブダビの南、al・Jafreh米軍基地と、カタールのアル・ウデイド空軍基地での作業を一時見合わせさえした。

 2018年、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イラン核開発計画の話題について語り、ミサイル開発を支援し、イスラム共和国の核開発計画のために働くファフリザデの特別な役割を強調し、聴衆に「彼の名前を忘れないよう」促した。アル=アラビーヤ・テレビが、わざわざこれを指摘したのみならず、イスラエルの新聞The Times of Israelも指摘した。こうした状況は、多くの専門家の評価では、イスラエルがファフリザデに罰点を付けたことを告げていたのだ。

 更に我々は、別の核保有国、特に中東での出現を、イスラエルが、ユダヤ国家にとっての死の脅威と同等に扱うのを忘れてはならない。それがユダヤ国家がなぜ「敵国がユダヤ国家を破壊する可能性を開発させるのを、イスラエルは許してはならない」という元イスラエル首相メナヒム・ベギンにちなんで名付けられた「ベギン教義」に強く固執している理由だ。1981年6月、イスラエル空軍にイラクのオシラク原子炉を爆破するよう命じたのはベギンだった。その後、2007年9月、イスラエルはシリアで、特定標的に空襲を開始したが、イスラエル諜報機関により、核兵器が開発されていた場所だと認められた。

 ファフリザデは、過去10年、イランで殺された5人目の原子物理学者で、イスラエルの関与の明らかな兆候は全ての暗殺で見られる。彼は、この業界の最高幹部だったので、ファフリザデ暗殺は最も注目を引くものだ。過去、イスラエルは、イラン原子力発電所や原子物理学者に対し、イランで汚れ仕事をさせるため、特別に訓練したイスラム政権反対派を使ってきた。だが、ファフリザデに対する攻撃にかかわる専門性と複雑さからして、イスラエル自身が実行したと想定することも可能だ。

 イスラエルは、イラン人核科学者暗殺や、イラン原子力発電所へのサイバー攻撃や、それらを破壊する一連の試みさえ行ったと、長い間、正しく疑われている。2019年、イスラエルのチャンネル10のインタビューで、イスラエル諜報活動専門家ローネン・バーグマンが、ファフリザデの側近補佐の多くがイスラエルのモサドに関連づけられる暗殺で死亡しているので、彼も「標的」だと”考えるのは合理的”だと示唆した。イラン核施設破壊挑発行為に対するイスラエル諜報機関の関与に関し、7月ニューヨーク・タイムズはイランのナタンズ市の原子力発電所で爆発装置を爆発させたのはイスラエルだったと報じた。

 多くのことが、11月27日に起きた事件へのイスラエルの共謀を示しており、ユダヤ国家が科学者殺人で有罪だと主張しているのはイラン当局のみならず、「一人のアメリカ当局者と、二人の他の諜報関係高官が、イスラエルが科学者に対する攻撃の背後にいたと語った。」と報じたニューヨーク・タイムズもそうだ。

 The Hillによるイラン科学者暗殺評価も、それと同調している。

イスラエルは、イランが包括的共同作業計画(JCPOA)の締約国になることに同意するよう、オバマ政権から圧力を加えられて中止していた、2010年から2012年までのイラン人核科学者暗殺政策に回帰しているように見える。

最近の事件の専門性と複雑さは、実際イスラエルが関与していた可能性が高い。

 モフセン・ファフリザデ殺人を計画したと言うイスラエル非難に加えて、アメリカも、これに関与していて、イランとの武力衝突をあおりたてる取り組みを強化しているという意見が今イランや多くの他の国々で表明されている。具体的に、この概念を支持する議論は、フォックスニュースが報じるように、この地域へのB-52爆撃機配備、ペルシャ湾に、米海軍航空母艦ニミッツや、国防長官代行クリス・ミラーの存在など、近年中東でのワシントン軍事活動が大幅に増大していることだ。Axiosは、イスラエル軍は、ドナルド・トランプ大統領が1月に退任する前に、イランに対する攻撃を命令するのを期待しているとさえ報じている。

 だが、ワシントンがモフセン・ファフリザデ暗殺で主役を演じているやら、イランとの戦争を引き起こすつもりだやらの考えは、大いに疑わしい。「11月3日の再選危機」後、今非常に困難な状況に陥って、未来の大統領選挙に立候補(例えば、2024年)するつもりで、近年、イランがかなり本格的に防空体制を強化しており、アメリカが空襲を実行すれば、死傷者を避けるのは不可能で、イランとの戦争が今日彼にとって政治的自殺であることをトランプは十分承知している。世界中で人々が、それについて何を言おうとも、イランの核開発計画自体は、イスラエルが、そうしているほど、トランプは懸念していない。結局、パキスタンとインドは核兵器を持っており、おそらく北朝鮮さえ持っているが、彼はそれらの爆破を計画していない。だから、この場合、この背景に対し、イスラエルは特に「荒れ狂い、腹を立てている」が、アメリカの役割は、イスラエルに対する支持を示す、せいぜい「補助員」である可能性が最も高い。

 更に、世界共同体が極めて批判的反応で、アメリカ自身、このファフリザデ殺人事件で、ワシントンが、それ以上のいかなる行動もするのを阻止する要素だ。既に、世界中かなりの数の政治家のみならず、EUや国連指導部も、まだ誰も責任をとっていない、この血なまぐさい殺人を非難しているのは指摘する価値がある。「テヘランでのイラン人原子物理学者モフセン・ファフリザデ暗殺は犯罪で極めて無謀な行為だ」と元CIA長官ジョン・ブレナンは述べ、もし、どこかの国の当局が、このような「国家テロ行為の背後にいれば、国際法の甚だしい違反と見なされる」と、つけ加えた。この殺人を画策した連中は、明らかにジョセフ・バイデンがイランとの対話や中東和解を進めるのを阻止しようと望んでいるとアメリカ・メディアが書いている。

 イラン自身に関しては、「もう一つの極悪な殺人に復讐する」完全に自然な反応は、現在、世界共同体が、顕著な緊張で記録し追跡している。The Hillは、ファフリザデ暗殺が、不本意に、一月にバグダッドで米軍に実行された、影響力あるイスラム革命防衛隊司令官ガーセム・ソレイマーニー暗殺を想起させると指摘している。「テヘランは[ソレイマーニー殺人]に報復すると誓ったが、まだそうしていない。機会を待つイランの習慣的な好みと即座に報復する衝動と釣り合いを保たねばならない」と新聞は強調している。

 テヘランが実行する報復攻撃の可能性の一つは、ユダヤ国家の観光産業丸ごと、イスラエルのみならず地域の観光事業全体に害をもたらしかねないエイラトか、あるいはイスラエル原子力発電所だ、というイスラエルの恐れは特筆すべきだ。

 イラン議会(イスラム議会、マジレス)は既にウラン濃縮の程度を高めることを考慮する一つの立法府の発議見直し促進手順を認めたとイランのタスニム通信が報じている。

 一部の専門家たちの予想は、イランが地域の海、特に紅海の海上交通政策を強化し、この地域でイエメン・フーシ派や様々なシーア派過激派戦士の編成を使って、ソレイマーニー大将に対するアメリカのテロ攻撃の数日後に、イラクで米軍基地に実行されたようなミサイル攻撃をする可能性を排除していない。

 だが、イラン指導者は、対応の上で、忍耐強く、慎重なことが証明済みであり、主として国際社会、特にイラン核合意のパートナー諸国が、暗殺をした連中を非難する度合いに依存するかもしれないと、一部の人々は強調している。

 だから、もしイランが、この暗殺に対し報復を実行するという性急な対応をし、イスラエルが、敵を破壊する容赦ない意図というベギン教義に従えば、この地域の状況は軍事衝突にさえ悪化すると我々は予想できる。この場合、既に、国連やロシアや中国や多くの他の国々による双方に自制を促す呼びかけは、イスラエルやアメリカや、この地域や全世界に、安全をもたらさないような危険な展開を防ぐのを助ける上で極めて適切だ。

 ウラジーミル・プラートフは中東専門家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。

記事原文のurl:https://journal-neo.org/2020/12/01/fakhrizadeh-s-assassination-will-bring-security-to-neither-the-us-nor-israel/

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 今日の孫崎氏のメルマガ題名

トランプ大統領、及び国務長官に指名のブリンケンは”米国の国際社会でのリーダーシップ“を主張。だが時代は変化。今や米GDPは世界の七分の一。購買力平価ベースでは中国の下。モラル的にも米国外交は自己国益を重視。指導でなく国際協調を目指すべし(NYT論評)。

 (売国政党)自民党に殺される!という声がネットでは増えているという。鶏卵汚職も、自民党だから驚かない!

 今日の日刊IWJガイドに、この記事の話題と関連するインタビュー再配信の案内がある。

【タイムリー再配信 808・IWJ_YouTube Live】20:00~「米国の対中国・イラン強硬姿勢に追従したら日本の外交と経済は崩壊!? 米国は開戦の口実に嘘の発表ばかりしてきた!? ~岩上安身によるインタビュー 第948回 ゲスト 軍事ジャーナリスト・田岡俊次氏(前半)」
視聴URL(冒頭以降は会員限定): https://iwj.co.jp/wj/open/archives/420867

 2019年6月に収録した、岩上安身による田岡俊次氏インタビューを再配信します。これまでIWJが報じてきた田岡俊次氏関連の記事は以下のURLから御覧いただけます。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/tag/%e7%94%b0%e5%b2%a1%e4%bf%8a%e6%ac%a1